2013年1月25日金曜日

卑弥呼

初めて見た時、その凛としたたたずまいと、強烈な赤しべの美しさに戦慄を覚えたクリスマスローズがあります。それが若泉ファームさんの作る「卑弥呼」です。

最初に写真で目にしたのは3年前になりますか。すごい花だなぁと思ったのは今でも忘れません。それから何度かネットショップで見かけるものの、いつも品切で購入できず。

今回ようやっとタイミングが良かったのか購入できました。赤弁赤しべの憧れの花です。

花だけに注目がいきがちですが、全体のたたずまいあってこその卑弥呼。花茎の伸び具合、うつむき加減の咲き方、株元にまとまる葉と魅せる要素がいくつもあります。

その中でも雄しべの開き方。雌しべに添ってすっと伸びて、先が開く姿が何とも艶やかでたまりません。まっすぐに日輪のように開いていく雄しべもありますが、それとは違った和を感じさせる慎ましやかな開き方。

 卑弥呼は実生で作られている品種ですので、一株毎に顔色が異なります。花びらの形、色、そしてネクタリーの色。

ネクタリーの色は花びらと同色の赤系とこの花のような緑系があるようです。どちらもそれぞれの美しさがあるので、どちらも卑弥呼であって良い。

赤ネクタリーは全体の配色をさらに引き締め、緑ネクタリーは葯のクリーム色と合わせて視線を引き込む色合いだと思います。

自分はどちらも好きですが、あえて選ぶならこの緑ネクタリーの方でしょうか。落ち着きの中にも若々しさが感じられて、未来を起草させる花だと思います。

うん、なんか興奮してて文章がまとまらないw

デュメトルムの不思議

デュメトルムを見ていて、最近気付いた事があります。

それは、蜜腺(ネクタリー)の数が8個だと言う事。写真の花はダブル咲きのデュメトルムなので花弁化していますが、枚数は8枚です。

この株は今年は花が二個しか付きませんでしたが、どちらも同じように8枚でした。

原種らしい楚々とした趣はあるけど、豪華にしたい時にはちょっと寂しいなぁ……

この頃交配種の花で、「多弁咲き」という豪華なものをよく見かけます。花弁の数がとても多いけど、あれはどこから来ているのだろう?

手近にあったデュメトルムの株を全部調べてみましたが、右の写真のように今咲いている全てのデュメトルムがネクタリーは8個でした。

今年はスロヴェニア産のものと、国内ナーセリーの株しか咲いていないので、ハンガリー産はどうかなと思うのですが、上のダブルはハンガリーで発見された個体由来のものだし、デュメトルムのネクタリーは8個なのかもしれません。

ちなみに他の原種を数えてみましたら、トルカータスは13から15個、ムルティフィダスは13、ボッコネイ、リグリクスは18前後、プルプラセンスは18から21でした。クロアチア産のトルカだけ妙に少なくて、6個。ただこれは一株だけなので、他の株が咲くまで分かりません。

試しにデュメトルム交配という交配種も調べてみると、デュメの血を強く感じるタイプは8個、よりハイブリッドな感じのする花は15個くらいとネクタリーの数に変化がありました。これも面白い現象ですね。

この記事を読んでくれた方で、お手元にデュメトルムの開花株がある方はぜひネクタリーの数を数えてみて下さい。8個以外の数で原産地のはっきりしているものがあれば、情報をお寄せ頂きたいです。

2013年1月24日木曜日

今年のヴェシカリウスの様子

一昨年調子を崩してしまい、昨年は手前の芽が動かないままだった6年目を迎える初代ヴェシカリウスです。昨年春の終わり頃に、手前の芽当たりが少し動いたのですが、やっぱり今年も動きませんね。

その分なのか奥側の芽が太めの二つと右端の細めの一つと三芽出てきました。良くても5枚で葉が止まりそうなので、今年も花は咲かずに終わりそうです。うまくすれば来年こそ……

今年からスリット鉢をやめて、底が網状になっている深めのプラ鉢に変更しました。サイズは18cmのものですので、本当ならもうちょっと高さが欲しいところ。

それというのも、やっぱりヴェシカリウスの栽培には、深さのある培養土が必要だと分かってきたからです。実は昨年の3月に上の写真のヴェシカリウスが枯れてしまった時の保険にと、双葉の苗を二本購入しました。シーズン終わりだったので、今タネで買うよりお得だったような。

 それをこんなポットに植えて、約一年経った二年目の姿がこれです。「超ロングポリポット」という名称で売られていたポットで、特に使うアテも無かったのですけど、面白いと思って10個くらい買ってあったものです。

ふと思いついてこれにすぐに植え替えました。サイズは9cmポットで、高さが20cmあります。アホみたいに深鉢ですw 下から1/3はナチュライトの大粒が入っていまして、培養土はハルキガーデンさんの「クリスマスローズの土」をそのまま使っています。わたしの標準用土です。

植え替え後の4月下旬に、左側のポットの一株が本葉を一枚展開してくれました。よく知られている通り、ヴェシカリウスは発芽初年度は双葉のままで休眠に入ります。ただ、全部がそうでは無くて、本葉が一枚出てくる株もある、という話でした。雪割草みたいだなと思ったのですが、植え替えによる刺激で本葉が出てくれたのかもしれません。 ジベレリン処理が効くかもしれませんね。

その後はてきとうにあまり乾燥させずに夏越し、10月中旬に今年の葉が伸びてきました。一年目で本葉を出してきた左の株はこの通りで、二枚展開しています。下から三枚目も伸びてきてます。

右の株は二枚展開しましたが、三枚目の葉芽はまだ見えません。多分ですが今年は出てこないんじゃ無いかなと思います。

このまま植え替えせずに秋まで育てて、超ロングポリポットの10.5cmのものに植え替える予定です。肥料は案外好きそうなので、葉面散布やら液肥やら時々やってます。

まだ二年目のチビ助のくせに、初代の脇芽と同じくらいの葉の大きさになるとは……貴様やるなっ! 想像するしかありませんが、長くまっすぐに根が伸びてる気がします。このポットは四つしか穴が無いので、根が下まで来てるかどうかも見ても分からないのが残念です。

2013年1月21日月曜日

リゲルの花

つぼみから咲くまでなかなか生長しなかったバラーディアエがようやっと咲き始めました。種子親に斑入りのリヴィダス、花粉親にダブルファンタジーを用いた交配です。

今のところ全ての株が薄いピンクのつぼみを上げていますが、どれも似たような花色になりそうです。開いてきたのはまだ4株ですが、全てこの写真と似たような感じで、バラーディアエらしい花になりました。

ちょっとアクセントになっているのは雌しべの先端にピンク色が入っている事。これはダブルファンタジーから受け継いだ形質です。リヴィダスの斑入りは雌しべに色が乗ってなかったので。今のところ開いている株は全て雌しべがピンクになってます。優性遺伝なんですね。

花の大きさは一般的なエリックスミシーと同じくらいで、意外と大きいです。草姿がコンパクトですっきり立ち上がる割に花が大きいというのは、鉢物としてみた場合に良い性質だと思います。耐寒性はリヴィダスよりは強くなっていると思いますが、ニゲル程あるかな?

根の形質はリヴィダスよりニゲル寄りです。しなやかで折れにくく、扱いやすい根になっていました。きっと過湿にもある程度耐性がついて育てやすくなっていると思います。事実、双葉からここまで一本も枯れてないし。

ニゲルの八重を使っても簡単にはネクタリーが変化しませんねー。有茎種のダブルとか聞いた事ないし、壁があるのかも。この交配で自殖出来れば良いのですが、残念な事に H. x ballardiae は不稔性と言う事が知られています。逆交配のリゲルといえど、きっとタネ出来ないんだろうなぁ……

試しに花粉付けはやってみますけどねw 無駄と思いつつもとりあえずやる。それがわたしのポリシーです。

2013年1月19日土曜日

WM0018が咲きました。

昨日の写真なので開葯していないため、厳密には開花一歩手前ですが今日は花粉が出てたのでOKでしょう。

内側の花弁がやっぱり一回り小さい感じがしますが、これが元々の形質なのか、株に力が無いせいなのかは来年以降を見る必要があります。

厚ぼったい花びらはあまり撚れたりしなさそうで、整った花型の花になるんじゃないかと期待して居ます。つぼみがもう一つありますが、今期は株がまだ小さいので無理させずに取ってしまおうか、咲かせるだけ咲かせてみようか考え中。

 裏側は掠り模様のダークパープルです。表側にこの色が透けて見えるので、正面からだと緑に紫をにじませた色合いに見えますね。

もう少し花びらが厚くなると透けずに綺麗なグリーンになるのかなと思いますが、アントシアンの性質から言って単に透けて見えているのでなく、開花が進むと生成されているのだとしたら意味ないです。

花びらの断面をスライスして、光学顕微鏡で観察すれば一発で判断出来るんですけど、学生時代じゃないからそんな機材も設備もないw 色の変化を毎日観察して推測する事にします。

どんな花と交配しようかと考えていましたが、とりあえず今日はこちらのグラハム交配の花に花粉を付けてみました。花の大きさが 3cm程の小輪で可愛らしい花です。

おそらくですが、トルカータスやアトロルーベンスなどの原種を使った原種系の交配株だと思います。落葉生がけっこう強くて、年内には黄葉した葉が枯れ始めました。

この花の葉っぱがなかなか特徴があって、芽出しの頃はパープルリーフ、葉の形状はまるまっちぃボッコネイの雰囲気があります。ごわごわしない柔らかい葉質で、いったいどんな原種の性質でこの葉になったんだろうと悩ませてもらってます。小型で邪魔にならない自分が理想とするタイプの葉です。

昨日のデュメトルム・ダブルが開花しました。花粉も正常に出ているようですし、雌しべも正常でした。クリーム色のピコティがしっかりまわってなかなかの美人さんだと思います。

これで大きさが一円玉よりちょっと大きいくらいと言う小輪。このままのサイズでピンクやら赤やらバイカラーなんかになったら、実に可愛らしいと思います。

この株の作り手の大木ナーサリーさんでは、ほぼ同じ大きさの純白の花を作出していらっしゃいます。ピンクが出てくるのももう少しかな?

デュメトルムのダブルとクロアチア産トルカ

先日つぼみを紹介した大木さんのデュメトルム・ダブルの苗がようやっと開き始めました。寒い日が続いてますからねぇ……がんばって。

真横から見たところです。花梗の長さが際立っているのがお分かりになるかと。デュメトルムの特徴の一つですね。

抱え咲きになってくれそうなのと、少しですけど白抜けピコティになってくれているのが嬉しいポイント。草丈はそれ程出ていませんので、背が高くなるタイプでは無いようです。

 花を下からのぞき込んでみました。意外と内側の花弁も大きく育っています。枚数は少なめかな。もっと細い花弁を想像していたのですが、幅があってふっくらした感じはなかなか良いです。

花弁も少し白抜けしてますので、花弁化の状態は進んでいるようです。雄しべと雌しべも見た感じでは正常そうです。

完全に開くと 2.5cm位の大きさの花になりそうです。



 やや斜めから。それにしても、最近は緑の花ばかり写真に撮ってるなぁw 緑色って再現難しい気がしてます。

デュメトルムの開花株もいくつか咲いているのですが、全部が同じ緑色じゃ無くて、粉白色を乗せたものや、黄緑色の強いものもあります。

個体差として固定しているようなので、白抜けピコティほどの特徴ではありませんが、交配する時は気を付けるようにしています。

さてさて、この子はこれからどんな花を産みだしてくれるでしょうか。

 TM08016、クロアチアの Korenica産のトルカータスも開き始めました。このくらいの時が一番綺麗だなぁと思いますが、トルカだとあまり開かずにこのくらいで止まってくれるものもあるので期待中。

強めのピコティとベインが入る花になりました。しかもピコティやベインの色合いが、明るめの赤紫なのでシルバーリーフとの良いコントラストになっています。

大きさはかなり小さい方なので、全開しても 2cmいかないんじゃ無いかと思います。ボスニアのトルカよりちょっと小さめな感じ。

クロアチアのトルカータスの花は初めてなので、こういう特徴の花がどの位咲いているのか興味があります。

こちらはティム・マーフィーさんのコレクトシードからの開花ですが、昨年や今年はトムさんや国内ナーセリーの方が現地で採種してきた苗をいくつか育てています。

この花と同じ Korenicaと言うところの苗も3株育て中ですが、あまりシルバーな感じはしない葉が出ています。コロニーが違うのでしょうか。

Korenicaって言っても村の地名ですので、その中で何カ所かトルカータスが生えている場所があるのだと思います。ボスニア・ヘルツェゴビナとの国境に近い村のようですので、トムさんの言うムルティフィダスとの自然交雑が進んでいるコロニーなのかもしれません。

トルカータスは今後の研究次第では、細かく分けられてしまうかもしれませんね。とりあえずこの花は可愛いので、育てていて楽しいです。この赤紫色はうまく取り入れたいな。

2013年1月18日金曜日

今年のムルティフィダスの花とシチリア島のボッコネイ

一昨年度からコンスタントに毎年咲いてくれるようになったムルティ・ムルティです。国内ナーセリーの実生個体です。初開花するまでは暑さに弱くて、育てにくい原種だなぁ……と思っていましたが、開花株になったら割と丈夫になりました。

昨年も3株程に株分けしちゃったのですが、あまり意に介さず元気に咲いています。直径3cm位の可愛い緑の花はいかにも原種らしい感じ。

ムルティは時々香る個体があるそうですが、これも香ります。オドルスによく似た緑茶っぽい雑味の混じる柑橘の香り。すっきりした感じでは無いので、あまり良い匂いとは感じません。ほのかに香る程度なので、香りの育種素材には向いて無さそうです。

 昨年初開花の WM0701、シチリア島産のボッコネイです。ウィルさんの所から株分け苗ではるばる到着したものです。シチリア島のものは小型で花の白い物が多いそうです。完全な白花ではありませんが、リグリクスに似た白い部分の多い丸っこい花ですので可愛らしいです。

香りはというと、あまりありません。リグリクスと比べて、なのでボッコネイとしては普通に香る個体と考えて良いかもしれません。 リグリクスを割合多く栽培しているのですが、明らかに柑橘系の香りをさせるものは交雑しているんじゃないかと考えるようになりました。

それというのも、現地採取の個体や、現地採取種子由来の個体は水仙に似たとてもさわやかな香りがするからです。柑橘系と表現される香りとは明らかに異なると感じます。

甘ったるさというか、しつこさが全くありません。本当に良い匂いだと思います。対してこのボッコネイも、リグリクスとは違ったまた良い香りがします。柑橘系? いやいや、自分にはそうは感じられません。何に似ているかはちょっと表現出来ないのですが、お菓子の香料の一つにこんな香りがあったような……

 一番花はやっぱり緑が残りがちです。二番花が咲く頃になると花びら中央の緑はもっと薄くなって、遠目にはほとんど白一色の花に見えます。

ボッコネイはつぼみの上がり方が独特で、ワラビとかゼンマイとか、そんな感じです。って、表現が悪すぎますねw あえてキンポウゲ科で表現するなら、節分草のつぼみの上がり方に似ています。

花芽のさやの中からつぼみが上がり始める頃には、既にある程度の大きさに育っていて、そのつぼみを抱きかかえるように苞がくるりと回り込んで花茎が伸びてくるのです。

こんな咲き方をするヘレボラスは他に見た事がありません。これがボッコネイの特徴の一つだと考えています。

 もう一つの特徴がこのギザギザの葉。ギザギザとした表現しようのない、特徴的な葉っぱです。それと小葉のサイズが比較的均一で、傘のように綺麗に広がるのも特徴の一つと思います。

成熟したムルティフィダスやヘルツェゴビヌスも、葉の大きさこそ違えど同じような傘状の葉を付けますので、ボッコネイが以前はムルティフィダスの亜種だったというのもうなずける気がします。

ただ、リグリクスとボッコネイを比較して見ていると、リグリクスからボッコネイ、ムルティフィダスと何か連続した繋がりのようなものを感じるのですが、気のせいでしょうか。自生地から考えるとそれは無いなぁと思うのですが、何か引っかかるものがあります。